【徹底解説】半導体製造装置や真空チャンバーで使える精密位置決めセンサとは?
半導体製造ラインや真空チャンバー内は、通常よりもシビアなコンタミ・アウトガス対策が必要です。
そのため、特殊で高価なパーツやセンサを使わざる得ない場面も多く、
- 「真空環境で使える非接触式センサーが20万円以上と高額…」
- 「もっと安価にパーツを調達したい…」
- 「特殊環境だからコストがかかるのは仕方がない…」
と諦めている設計者も多いのではないでしょうか?
昨今の半導体不足から半導体製造装置の生産が急務となっています。そんな中、装置設計のコストダウンは常に設計者を悩ます課題の1つです。
一方で装置の主要機能にコストをかけながらも
- 細部の機能(例えば、扉の開閉・ローディング・アンローディング)
- 治具やワークの位置決めや有無検出
にかかるコストは抑えたいですよね。
本記事では装置設計の真空環境下におけるセンサ選定や注意事項、事例を解説します。
●本記事のまとめ
・真空環境で使える低コストなセンサがわかる
・真空環境でよくおきる課題がわかる
・真空環境下での部品の選び方がわかる
・半導体製造装置で採用される「真空対応 位置決めタッチスイッチGNシリーズ」がわかる
目次
半導体製造装置や真空環境における課題とは?
半導体製造装置などの装置設計における2つの課題を取り上げます。
- アウトガスによる課題
- 装置のスペースによる課題
それぞれについて解説していきます。
アウトガスとは?
通常、装置に使用されるパーツ類は表面に水分を主成分とした酸素・窒素などの有機物や気体を含んでいます。
こうしたパーツ類が真空環境下に置かれると、内包されていた気体が真空中に放出されます。
これを一般的に「アウトガス(放出ガス)」と呼びます。
アウトガスが引き起こす課題
真空環境下において、通常の治具や部品、接着剤、ケーブルでは部材からアウトガスが発生します。
こうしたアウトガスは、装置の内壁やワークに付着することで以下のようなトラブルを引き起こします。
- 不良品の発生による歩留まり低下
- ワーク汚染など品質問題
- チャンバーの窓が曇る
- 非接触センサの誤作動
- 検査コストの増加
- 電子機器の動作不良
したがって半導体製造装置などの真空環境下では低アウトガス材質の治具や部品を採用する必要があります。
狭いスペースによる課題
半導体製造装置や真空チャンバー機内は非常に狭い空間で構成されています。
狭いスペースの制限がある中で、極力無駄のない治具や位置決め等の設計を行う必要があります。
したがって、真空環境下の製造における1つの大きな課題はアウトガス対策をしながら限られたスペース・予算で設計をいかに実現するか?ではないでしょうか。
真空下で使える真空スイッチGNシリーズとは?
先述した2つの課題をクリアする「高真空対応の位置決めタッチスイッチGNシリーズ(以下、真空スイッチ)」を解説します。
真空スイッチは、マイクロスイッチやリミットスイッチのように、オンオフを出力する小型のタッチスイッチです。
主な使用例として、生産設備やロボットにおける治具やワークの
- 位置決め
- 原点出し
といった用途で採用されています。次に、真空スイッチの4つ特長を解説します。
真空スイッチGNシリーズが選ばれる4つの理由
半導体製造装置などで真空スイッチが採用される主な理由は以下の4つです。
- 高真空度 10-5Pa クラスで使える
- 低コスト
- 超小型で、省スペース化が可能
- コンタミ対策としてクリーン環境下での製造
それぞれについて説明します。
特徴1:高真空度10-5Pa クラスで使える
真空スイッチは、アウトガスの発生を極力抑えた素材を採用しており、 高真空度クラス10-5Paの環境でもアウトガスをほとんど排出せず使用できます。
実際に導入された高真空領域のプロセスには、真空蒸着装置、スパッタリング装置、薄膜加工装置などが挙げられます。
※通常環境~高真空度環境:HV:high vacuum(10-1Pa~10-5Pa)
スイッチ本体の材質
真空スイッチ本体に使用されている材質をご紹介します。
- 先端子材質:NCタイプ(SUS420)、NOタイプ(PEEK)
- 接点材質:BSBM
樹脂パーツの材質
真空対応タッチスイッチ内部に使用されている樹脂部品には「PEEK」を使用。
揮発性有機化合物や金属イオンの含有が非常に小さく低アウトガスな素材のため、真空環境下においてコンタミを気にせず使用できる材質です。
ケーブル の材質
PTFEを使用しています
接着剤の材質
低アウトガスの接着剤『トールシール』を使用しています。
※外部リンク:トールシールについて
その他の構成物質について
真空スイッチはグリスなどの潤滑剤やオイル等は一切不使用です。
特徴2:低コスト
一般的に、真空環境下で使用可能なセンサの多くがアンプを必要とする非接触式のセンサです。
非接触式センサの1台当たりの導入コストは20万以上~と高額になることも珍しくありません。
その点、真空スイッチは
- アンプ無しで使用可能
- 数万円台
と導入しやすい価格帯になっています。
特徴3:超小型で省スペース化が可能
真空スイッチ は超小型で、狭いスペースでも容易に取り付けができます。
特徴4:クリーン環境下で製造
コンタミ対策として以下の環境下で、真空環境対応タッチスイッチの組み立てを行っています。
- 組立部品を洗浄後使用
- クリーンルームでの組立作業
- 組立の際はラテックス手袋(パウダーフリー)を使用
真空スイッチの種類と選び方
真空スイッチはユーザの使用条件に応じて以下の5つの仕様から選定することができます。
- コンタクト形状
- ケーブル方向
- ケーブルの長さ
- 動作形態:A接点(NO) B接点(NC)
- 径・ストローク長
それぞれ解説していきます。
仕様1:コンタクト形状
タッチスイッチは、コンタクト部に対象物を接触させて信号を出力します。
検出物に接触させる角度によってコンタクト形状を選択可能です。コンタクト形状は以下の2タイプがあります。
- 正面から接触させる「直進当て用コンタクト」
- 斜め方向やスライドさせて使用可能な「偏角当て用コンタクト」
正面から接触させる「直進当て用コンタクト」
直進当て用コンタクトは、斜め方向からコンタクトに接触すると接点や内部を損傷する可能性があります。
必ず直進方向からコンタクトに接触するように組み込んでください。
スライドさせて使用可能な「偏角当て用コンタクト」
コンタクトに検出物が斜め方向やスライド方向から接触する場合は、ボールコンタクトの真空スイッチを選定下さい。
特に以下のようなケースにボールコンタクトが適しています。
- 接触部がR形状のワーク
- 大型の液晶パネルや基板のようにたわんでしまうようなワーク
ボールコンタクトタイプの真空スイッチは 径・ストローク長の異なる2タイプがあります。
※『ストロークとは?』はこちら
・M5タイプ ・ストローク:0.8mm
・M16タイプ・ストローク:2.9mm
仕様2:ケーブル方向
タッチスイッチのケーブル方向は以下の2タイプから選択可能です。
スペースの限られた設備内でのケーブルの配線条件に応じてお選び下さい。
- ストレート
- 直角出し方向
仕様3:ケーブルの長さ
真空スイッチの標準ケーブル長は0.5メートルです。オプションで以下の3種類から長さを選択可能です。
- 1メートル
- 3メートル
- 5メートル
仕様4:動作形態
動作形態はNO(A接点)とNC(B接点)の2タイプ。
NOとNCでは信号動作点が異なります。
- NO(A接点) :コンタクトが接触面に触れて、0.2~0.3mm押し込まれると信号が出力されます
- NC(B接点) :プリトラベル(信号が切り替わるまでの距離)が0。対象物に触れると信号が出力されます。
まとめ:真空スイッチのラインナップ一覧表
・コンタクト形状
・ケーブル方向
・ケーブルの長さ
・動作形態:A接点(NO) B接点(NC)
・径
上記仕様を一覧にまとめました。
※1:全長=コンタクト先端から本体末端まで(コードの長さは含まない)
※2:単位:mm
※3:『信号動作点とは?』についてはこちら
※4:『ストロークとは?』はこちら
真空スイッチに関するよくある質問
耐熱温度(上限・下限)について
真空スイッチの耐熱温度は上限が120℃・下限は0℃です。
アウトガス放出のためのベーキングする際は、120℃以下で約2時間までであれば、問題なく使用可能です。
操作速度について
操作速度10mm/min以下での低スピード使用はチャタリングが発生するリスクがあるため避けてください。
接点寿命
オン/オフの繰り返しを300万回使用可能です。
取付時のナット・ネジの締付トルクについて
タッチスイッチ固定時のナット・ネジの締付トルクは1N/mです。
トルクが強すぎると本体が破損するリスクがあるため注意してください。
半導体製造装置だけじゃない、真空スイッチの導入実績
半導体製造装置で使われることが多い真空スイッチですが、他にも多くアプリケーションの実績があります。
真空スイッチの導入実績やアプリケーションを業界、用途、ワーク別に解説します。
業界別、導入実績
- 半導体
- 液晶パネル
- 有機EL
- 航空宇宙(衛星など)
事例別、導入実績
真空環境内での以下のような位置決めがメインになります。
- ワーク原点出し
- ワーク着座
- 治具の位置決め
- 扉の開閉
- 搬送キャリアの位置決め
検出ワーク別、導入実績
- 基板
- ガラス
- 金属
- プラスチック
アプリケーション別、導入実績
- 真空チャンバー内でのステージ位置決め
- 真空蒸着装置内でのワークの位置決め
- スパッタリング装置
- 薄膜成膜装置内での位置決め
- 半導体ウェハーの位置決め
- 真空対応位置決めステージ
- 基板ホルダー向けマスク着座確認
- コンベアで流れてきたトレーの位置決め
真空スイッチを使った改善事例
半導体製造ラインに関連する真空スイッチの導入事例を3つ紹介します。
- 半導体製造装置のXYテーブルの位置決め
- ガラス基板の着座確認
- 搬送キャリアの原点出し
採用事例1:半導体製造装置のXYテーブルの位置決め
【課題のポイント】
- ステージのXY軸が自己発熱により、ミクロンレベルでズレる
- フォトマイクロでは、精度の高い原点出しができない
【改善後】
- 接触式の真空スイッチでステージの精密位置決めを実現
採用事例2:ガラス基板の着座確認
【課題のポイント】
- 非接触式の真空センサが約20万円以上と高価※
- ビューポートの設置が必要
※「真空ファイバーセンサ」や「変位センサ」
真空スイッチは通常品で定価3~6万円台ですが、ファイバーセンサなどを使用すると1台当たりアンプ付きで20~50万円程度のコストがかかります。
【改善後】
- 高価な特殊真空用コネクタが不要になった。
- ビューポートが不要になりコストダウンされた。
採用事例3:搬送キャリアの原点出し
【課題のポイント】
- スライドさせる搬送キャリアの原点出しを、下面と側面の2か所で行いたい
【改善後】
- ボールコンタクトタイプのタッチスイッチを治具に埋め込むことで着座下面の位置決めが設計できた。
- 側面の原点出しは直進当てタイプのスイッチで高精度に原点出しが設計できた。
以上、真空環境で利用いただける真空スイッチのご紹介でした。
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真空スイッチGNシリーズの資料について
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製品ページ
真空対応タッチスイッチGNシリーズは真空環境に配慮した低アウトガスの接触式タッチスイッチです。
アンプが必要な高価な非接触式センサからの置き換えでコストダウに貢献します。
製品に関するお問い合わせは以下のフォームからお気軽にご連絡ください。
経験豊富な、エンジニアが対応させて頂きます。