歯科用ミリングマシンとは?基本知識と課題を解説

今、歯科用ミリングマシンの需要が年々高まっています。
本記事では、そんな「歯科用ミリングマシン」の課題とそのソリューションについて基礎から解説します。
これから装置購入を検討している方、ミリングマシンの設計者様は必見です。

本記事でわかること

  • 歯科用ミリングマシン基礎的な知識得られる。
  • 歯科用ミリングマシンの課題がわかる
  • 歯科用ミリングマシン用で使えるセンサについてわかる。
  • 主要なミリングマシンメーカーがわかる。

歯科用ミリングマシンとは?

歯科用ミリングマシンとは、CAD/CAMシステムを利用した小型の切削加工機です。
主に失われた歯を補う詰め物、被せ物などの『補綴物(ほてつぶつ)』をプログラムで自動加工します。
「ディスク」と呼ばれる円盤状の歯科材料をツール(=ミリングバー)を使って歯の形に削り出します。
ディスクの材質には、非金属のジルコニア、セラミック、ワックス、PMMA(アクリル樹脂)など、金属ではチタン、コバルトなどさまざまな種類が存在します。
材質によって変色や劣化しにくかったり、見た目がきれいに仕上がる、などの特長があり目的に応じて使い分けます。

歯科用ミリングマシンとは?
▲ディスクと呼ばれるワークから補綴物を自動で削り出します

歯科用ミリングマシンの導入増のワケ=技工士不足。

現在、 歯科技工士不足や働き方が問題視されています。
日本では3人に一人(3000万人以上)が入れ歯を使用しており、こうした補綴物の製作・修繕を行う歯科技工所は2万施設にもおよび公立小学校の数とほぼ同じです
今後の日本では高齢化とともに補綴物を必要とする人口増加は避けられないでしょう。
一方で、歯科技工士の収入・労働環境などの背景が技工士不足の要因になっているとの指摘もされています。

高齢化社会において歯科医療の需要はさらに高まり、歯科技工士の仕事も増加していくことが予想されます。
補綴物の加工を自動化し技工士の負担を軽減するミリングマシンは、今後間違いなく需要の高まっていく設備の1つではないでしょうか。

ミリングマシンの種類とその課題について解説していきます。

歯科用ミリングマシンの種類と価格帯

ミリングマシンにはドライ(乾)式、ウェット(湿)式、乾湿兼用モデルの3種類があります。
それぞれの方式について解説します。

乾式(ドライ方式)

加工時に水・クーラントを使用しない加工方式です。
主にやわらかい材料(ジルコニア、レジン、PMMAなど)を削るため0.5mm台の小径ツールが使用可能で、細かい造形加工が可能です。一方、硬い材料を削る場合は小径ツールは折れたり加工時間が長くなるなどのデメリットからあまり使われません。

湿式(ウェット方式)

加工時の水・クーラントをかけ摩擦熱を抑えながら研磨する加工方式です。
主に硬い材料(ガラスセラミックやチタンなど)を加工する際に採用されます。
硬い素材は、強度と見た目の美しさから患者からのニーズも増えています。

ドライ・ウェット兼用方式

乾式・湿式両方に対応している兼用モデルです。
1台で様々な材料の加工に対応できるメリットがある一方で、ウェット加工からドライ加工に切り替える場合など、機内の清掃や乾燥など切替に伴う非生産時間が発生するデメリットがあります。
他にも両機能を持つことで加工機能が不十分になる、初期投資が高額になる、などが一般的に挙げられます。


ドライとウェットそれぞれに特化した専用機のほうが生産効率が高いケースもあるため一概に兼用モデルが良いとは言えません。材料特性や使用頻度など、目的に応じて3方式を使い分けることが重要です。

ミリングマシンの価格帯とかかるコスト

機種にもよりますが本体のみの定価で300万~800万円のものが多いです。
本体以外に事前に考慮すべきコストは

  • 周辺オプション(集塵機、コンプレッサー、ミリングバー収容数)
  • CAD/CAMソフトウェアとライセンス
  • ミリングマシンのメンテナンス費用
  • 切削材料(ディスク、バー材)

などがあります。
年間かかるランニングコストや消耗品費、保守費用なども事前に試算しておきましょう。

歯科用ミリングマシンの課題

課題1. ミリングマシンの加工精度を維持する方法とは?

歯の噛み合わせや見た目は日常生活に大きく影響するため、ミリングマシンには高い加工精度が要求されます。
しかしミリングマシン本体の精度だけでは長期間の精密加工はできません。
前提として加工精度を維持するには、正確な「ツールの原点出し」と「ワークの位置決め」の2つが必須です。

ミリングマシンの課題:機械性能だけでは加工精度は安定しない?

ツールの原点出しとは?

ツールの加工開始点を決めることを指します。ミリングマシンではφ1mm以下の極細ツールをつかって硬い材料を加工するため摩耗します。ツールに予期しない摩耗やチッピング(欠け)がある状態での加工は、完成品の寸法がズレてしまい加工不良に直結します。特に連続で加工する際は、都度ツールを確認し補正した上で動作をすることが求められます。

ワークの位置決めとは?

ワークをしっかりと保持して、加工中に動かないようにすることです。ディスクの固定がゆるんだまま加工すると、たとえ
装置の動作精度が高くても、完成品の寸法に誤差が発生し加工不良の原因となります。人が監視していないディスクチェンジャーを使った無人運転では特に気を配る必要があります。

※寸法誤差の例

・穴を誤った位置に開けてしまう
・寸法よりも大きな穴を開けてしまう
・誤った角度でディスクを削ってしまう

以上のようなリスクを防ぐには、センサで正確にツールやディスクの位置を把握しながら加工しなければいけません。

課題2.ミリングマシンが小型すぎてセンサがつけられない?

センサの取付スペースを確保できないという問題があります。
多くの歯科用ミリングマシンは小型化(デスクトップサイズ)を追及しつつも、より多くのミリングバーを搭載できるよう設計されるため、センサの取付スペースは限られています。限られたスペースでも搭載できる小型のセンサが必要になります。

ミリングマシンの課題:小型すぎてセンサがつけられない?
▲ミリングマシンの内部

課題3.切粉や液体でセンサが破損・誤動作する

万が一センサが破損すると復旧するまで装置が使用できなくなるためセンサにも高い耐久性が必要です。
特に、ミリングマシンの機内は乾式・湿式問わず、粒子の細かい切粉や液体が飛散するため、保護構造が弱いセンサでは本体に侵入し破損するリスクが高い悪環境です。非接触式のレーザーセンサ・近接センサなどは飛散物により誤動作のリスクが高いため搭載は不向きでしょう。

ミリングマシンの課題:切粉や液体でセンサが破損・誤動作する
▲装置の中はセンサの不具合の原因となる樹脂や金属の削りカス(切粉)で充満しています

歯科用ミリングマシンの課題解決策

ご紹介した「ツールの原点出し」や「ワークの位置決め」などの課題解決策として、ミリングマシンで多数採用されているメトロールのセンサをご紹介します。

解決策1. ツールセッタによるツールの原点出し

ツールセッタとは、ツールを接触させることで加工基準となるツールの加工原点を機械制御に伝えるセンサです。
メトロールの小型ツールセッタPシリーズは、繰返し精度0.5µmと高精度かつ小型。ツールの摩耗やチッピングによる微細な寸法誤差も確実に補正し加工不良を防ぎます。人の見ていない自動運転中に加工不良を作り続ける、といったトラブル回避には必須です。低コストで高いパフォーマンスを発揮するため国内だけでなく、ドイツやイタリアなど欧州のミリングマシンメーカに多数採用されています。

ミリングマシン用ツールセッター
▲小型ツールセッタP11シリーズ
ミリングマシンの搭載事例
▲P11 シリーズの搭載事例

解決策2. 超小型タッチプローブによるワークの原点出し

タッチプローブは加工前のワークの原点出しや加工後の寸法計測を行うセンサです。
先端についた球でワーク(材料)に触れることで、「加工の原点となるX Y Zの位置座標」をミリングマシンにフィードバックします。超小型タッチプローブK3Sシリーズは狭いスペースでも高精度なワークの原点出しが可能で、ワークをセットした際のゆるみやズレによる加工不良を未然に防止します。

ミリングマシンにも搭載できる超小型タッチプローブ
▲小型タッチプローブK3Sシリーズ
タッチプローブ使用イメージ
▲タッチプローブによるワークの原点出し(イメージ)

解決策3. 防水防塵仕様のセンサを使用する

メトロールのセンサは水や油、切粉に対して高い耐久性を発揮します。
センサは厳しい耐水耐油試験をクリアしており大型の工作機械での採用実績も多数あります。あらゆる方向からの噴流水やクーラントに対して耐久性を発揮。センサ本体は保護規格IP67~68仕様で水・粉塵の侵入を防ぐ仕様のためミリングマシンに最適な設計になっています。

※クーラントと粉塵は放置すると固着し、センサの不具合やツールがホルダーにくっ付いてしまうなどトラブルに繋がるため使用後は洗浄など対策が必要です。

タッチプローブの耐久試験の様子
▲タッチプローブの切削油の耐久試験風景

解決策4. ミリングマシンに合わせたセンサの専用設計

ミリングマシンの使用環境に合わせてセンサを専用設計することも可能です。
メトロールのセンサは設計から製造まで全て自社工場(東京都 立川市)で行っています。
使用するツールやスペース、センサの取付場所に合わせてセンサのサイズ・コンタクト径、ストローク、エアブロー(切粉避け)、接触力、センサ保護仕様などをカスタマイズが可能です。ミリングマシンでの豊富な搭載実績をもとに、使用条件に合った最適なセンサをご提案いたします。

▲カスタマイズ例:(左から)下向き用切粉よけカバー、上向き用切粉よけカバー、最右カバーなし

歯科用ミリングマシン向け製品まとめ

代表的な歯科用ミリングマシンメーカー

歯科用ミリングマシンメーカーの一部をご紹介します。
国内でもヨーロッパ製のミリングマシンが多く流通していますが、国産のミリングマシンメーカーも近年出てきています。

国産ミリングマシンメーカー

キヤノン電子株式会社 搭載機【MD-500S】

海外ミリングマシンメーカー

(動画あり)小型ツールセッタ 歯科用ミリングマシンでの採用事例

最後に、小型ツールセッタの導入事例をご紹介します。動画の中で当社のツールセッタが搭載されています。

キヤノン電子株式会社 搭載機【MD-500S】

Amann Girrbach AG社製 デンタルマシン  ツールセッター:(3:32~)
Arum Europe GmbH社製 デンタルマシン  ツールセッター(0:27~)
Dental Machine S.r.l.社製 デンタルマシン
Dental Automations社製 デンタルマシン  ツールセッター0:08~
Datron社製 デンタルマシン  ツールセッター 1:45~

ミリングマシン用センサに関するお問合せ

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